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北の大地の文化塾


北の食文化」をテーマに<北の大地の文化塾>と題しまして
平成17年11月から平成18年10月までの1年間、毎月全国から
著名人を講師にお招きし講演会を帯広市で開催いたしました。
また、講演の中で、お話にまつわる食物を試食していただきました。 
「食べて味わう」講演会、全12講演の概容をご紹介いたします。
六花亭製菓株式会社との共催です。


スケジュール

第1回  「北の大地の発酵文化」 小泉武夫さん(2005年11月)
第2回  「や!これはおいしい鍋料理」 嵐山光三郎さん(2005年12月)
第3回  「わが食への想い」 壇太郎さん(2006年1月)
第4回  「山と食事」田部井淳子さん(2006年2月)
第5回  「ふるさとの味、ふるさとの歌」原田直之さん(2006年3月)
第6回  「シェイクスピアの味はごった煮」小田島雄志さん(2006年4月)
第7回  「いつか、どこかで、誰かと、食べる楽しみ」永六輔さん(2006年5月)
第8回  「辺境の食卓」椎名誠さん(2006年6月)
第9回  「日本の居酒屋を歩いて」太田和彦さん(2006年7月)
第10回 「小野小町の美容食」永山久夫さん(2006年8月)
第11回 「様々なる食文化」島田雅彦さん(2006年9月)
第12回 「つくり手、売り手、買い手をつなげる『いいものプロジェクト』」
      白田典子さん(2006年10月)





2005年11月25日 北の大地の発酵文化
東京農業大学教授 小泉武夫

 北海道の発酵文化は深いものです。その中でも生活に根付いた発酵文化をもっていたのは帯広でした。六花亭のマルセイバターサンドに代表されるように「乳の発酵」が盛んだったのです。酪農地帯ですから牛乳が採れます。冷蔵庫のない時代、牛乳はすぐに腐ってしまいます。そこで牛乳を発酵させてバター、チーズ、ヨーグルトにして保存したのです。

 豆もそうです。「豆の発酵」納豆はすばらしい発酵食品です。さらには開拓時代にとても重要だった味噌、醤油も大豆を発酵させてつくります。「麦の発酵」もあります。北海道といえばビール。ビールは麦を発酵させます。それとパンです。意外かもしれませんが、パンも麦からできる発酵食品なのです。「野菜の発酵」としては漬け物。これも保存がききます。だいぶ後になってから出てくるのは「果物の発酵」ワインなどがあります。

 そしてもうひとつ「魚の発酵」として忘れてはならないのが「魚醤」です。

平安時代の日本には4種類の醤油がありました。一つは<穀醤>穀物からできるものです。二つ目は<魚醤>魚から作られる醤油、いわゆる「ぎょしょう」です。三つ目は<肉醤>これは肉を使ったもので、主に鴨肉が使われていました。最後四つ目は<草醤>野菜からできたもの。現在、醤油は穀物・大豆からできる醤油と魚からの魚醤の2種類しかありません。

 今日はその「魚醤」を召し上がっていただきます。釧路の鮭と鱈の魚醤です。魚醤は食品添加物を一切使わない100%天然のものです。且つ、生ごみを出しません。いままでは捨てていた鮭のアラや頭を発酵させて作るのです。クセがなく非常に使いやすいですし、お湯で薄めればそのままめんつゆになります。これからは発酵によって無添加で美味しくて経済的な魚醤が活躍する場が増えていくに違いありません。


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2005年12月16日 や!これはおいしい鍋料理
作家 嵐山光三郎

 おいしい鍋に出会ったのは21才の時、<石狩鍋>です。小さい切り身の鮭しか見たことがなかったから大きい鮭に感動して、今でも覚えています。雪が降っていました。<石狩鍋>は雪がしんしんと降る寒い中、みんなで食べるのが良いですね。
 それとは逆に、暑い時に食べる暑い鍋というのもなかなかで<タイスキ>もおいしい。タイのすき焼きです。タイは熱いところですから黙っていても汗をかきます。汗をかきながら鍋を食べてさらに汗をかく。醍醐味ですね。


 <ちゃんこ鍋>も最近人気が出ていますが、あれはそんなにおいしいものではありませんね。とにかく何でも入っているだけですから。
 鍋は洗練されてくるとごちゃごちゃしなくなるものです。では<ちゃんこ鍋>はいつ食べるとおいしいか。相撲部屋で食べるとおいしい。本気でぶつかりあう稽古場、そういう修羅場でみんなでフーフーいいながら食べるのはおいしいですよね。場がうまいのです。鍋料理は人間関係です。例えば鍋に具材を入れるための菜箸があると、その鍋は余所余所しいものになります。みんなが直箸でわいわい食べる。それが鍋ですよ。家族と、友達と囲む鍋はおいしくなります。


 さて今日召し上がっていただくのは<重慶の火鍋>です。そこの火鍋は四川とは一味違う辛さを持った鍋です。この辛さがポイントなのです。日本でも人気のキムチ鍋、あの辛さは前面にキムチが出ている。あの辛さはウェットです。それに比べて重慶火鍋はドライな辛さです。その秘密は山椒にあります。唐辛子だけではなく、山椒を入れることによってこの独特の辛さを出しているのです。

 具材は北海道らしいものをと考え、鱈を用意しました。それと八角、これは五香のひとつにも数えられています。匂いがキツイので日本で鍋に入れることはありませんが、中国では普通です。ぜひお試しください。最後に魔法のしゃぶしゃぶをして締めます。その具材とはレタス。レタスをちぎって残ったスープでしゃぶしゃぶ、これは絶品です。



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2006年1月20日 わが食への想い
エッセイスト・CMプロデューサー 壇太郎

 仕事柄、国内外の色々な地方に出かけます。新しい国に行くと、必ず朝の市場をのぞくことにしています。市場にはその国の食物、風習や言葉が溢れていて、その国のことが端的にわかるからです。
  
 阿寒湖界隈でCM撮影を行ったときには、厚岸まで買出しに行き洋食屋を見つけました。その洋食屋さんでカキフライを頼むと「何個食べる?」と問われ、カキフライはふつう5、6個と思い「5個ください」とお願いすると「5個でいいの?」と聞かれました。やがて、スリッパ大のカキフライが大皿に盛られて出て来たのには、驚いたものです。
 厚岸はすごい町だ、北海道は豊で大らかであるとつくづく思ったものです。

 僕が「食」に興味を持ったのは父檀一雄の影響が大です。幼い頃から台所に立つ父を見てきましたから、料理というのは母親ばかりではなく、父親もやるものだと思いました。いや、男の役目と思い込みました。父は夜中に書斎で原稿を書き、昼前に食堂へ出てきます。梅干を入れたお茶とビールを飲んだら散歩がてらに買出しに出かけ、おもむろに料理を作り始めるのです。原稿を頼みに来た編集者や家族にご馳走を食べさせる為なのです。
 
 「食べさせたい」「食べて欲しい」というモチベーションがあると、不思議なことにおいしい料理が出来上がるのです。

 最近、「食」に無関心な人が増えてきました。親達がそうだと、子供が育ちません。ただ空腹を満たすだけで、ファーストフードを利用してしまう。「食育」という言葉を、よく聞きます。しかしスローフードだとかスローライフとかロハスという言葉ばかりが先行しているのではないでしょうか。要は、「家族全員が揃って、どんなことでもいい、会話を交わしながらみんなで食べよう!」そういうことだと思います。人が集まり、飲み食いがある。それが社会です。きちんとした食生活を家庭で行っていれば、子供というものは素直に育ってくれる、と、僕は思います。

 みなさん、好き嫌いはありますか?
「羊」なんてどうでしょうか。臭いという理由で嫌いな方が多いように思います。北海道はジンギスカンがあるからみなさんお好きだと思います。

「コリアンダー」は?香菜とかパクチーとも呼ばれますね。タイ料理や中国ではよく使いますが、どうもクセが強すぎてこれも嫌いという方が多い。
 それと「タイ米」。粘りがなく、日本の米と随分違うのでどうも好きになれないなんていう方いませんか。日本の米と同じ炊き方をしていてはだめなんですね。タイ米にあった炊き方をしなくてはいけません。

 さて今日はこれら「嫌われ物たち」を召し上がっていただこうと思っています。檀太郎特製ラムカレー、名付けて「ダンカレー」です。カレー粉も自家製です。今回の講演がみなさんの好き嫌いを見直す機会になれば大変嬉しい次第です。

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2006年2月24日 山と食事
登山家 田部井淳子

-概容-

 海外の山ではガイドが作ってくれる料理だが、いわゆるオートミール、西洋がゆの食事が多い。そのままでは栄養が足りないので、バター、チーズ、生クリーム、マヨネーズ、カシューナッツ、ほしぶどうなどを入れる。しかし、満足感がなく食べ終わってから、お餅を焼いてのりと醤油で食べていた。ヒマラヤでも自分の育った醤油と味噌の食文化を食べた。しそみそなどの自家製味噌は必ず山へ持っていく。

-自家製みその紹介など-

 <しそみそ> 青とうがらしとかつおぶしを炒めて、刻んだ大葉を入れる。みそと酒、みりんでぐつぐつと煮詰める。半年以上は保存がきく。
 <ふきみそ> しそみそと同様の作り方。大葉のかわりに蕗を入れる。これにお湯を注ぐだけで、フキの香りが漂う味噌汁の出来上がりです。おにぎりの中に入れるのも良いが、冬の山ではおにぎりは冷たくなって食べにくくなる。こうなった場合は、お椀におにぎりを入れ熱湯を注ぐ。蕗茶漬けになる。食欲を刺激する香りと、お茶漬けの食べやすさで非常に重宝する一品。
 もう一品、山に必ず持っていく<干し柿>。糖分は貴重なエネルギー源。自然の甘味はどんな高さでも食べられる優れもの。


-試食-

 <ふきみそ>入りおにぎりと、<こづゆ>を召し上がっていただきました。
 <こづゆ>は田部井氏の出身、会津の郷土料理。山から降りてきたら食べたくなる一品。海のない会津ではめずらしくほたてを使った料理です。ほたてと野菜がたっぷり入った鍋に醤油をたらす。


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2006年3月8日 ふるさとの味、ふるさとの歌
民謡歌手・社団法人日本歌手協会理事長 原田直之

 私は福島県出身です。仙台に近い海側の相馬地方で育ちました。稲作、酪農、養蚕と盛んでしたが、やはり漁業の町でした。鮭の獲れる境界線に位置している相馬では、よく秋になると川で鮭が獲れました。
そしてその場で「もみじ汁」にして食べるのです。獲れたての鮭と野菜を味噌で煮込み、河原でいただく。子供のころから食べていましたので、今でも秋になると「もみじ汁」が食べたくなります。
 今日はその「もみじ汁」をみなさんに召し上がっていただきます。

 仕事柄、様々な土地に行って歌いますがその土地の「食」に触れるようにしています。まず楽屋に入ります。楽屋に用意されているお菓子が楽しみのひとつなのです。お菓子にはその土地
土地の文化が表れていますので、おいしかったお菓子はスケッチして遺すようにしています。 「食」は民謡と同じでその土地の色がでるのです。民謡ではご当地民謡をどうやって残すのか
が重要になってきています。今では、歌われている農作業や風景そのものが失われていますから。

 その土地の「食」が生き残るにはどうしたらいいのでしょう。観光のため、観光客のための「食」ではなく実際に地元民が食し、おいしさを伝えていくことが大事ではないかと私は思います。
その土地にしか出せない味わいというのがあるのです。民謡も食べものも同じ、その土地で食べて歌って聴くのが一番良いと思います。

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2006年4月21日 シェイクスピアの味はごった煮
東京大学名誉教授・東京国立劇場館長 小田島雄志

 北海道といえば忘れられないのがラーメンです。函館の「馬鹿楼」(うまかろう)という店のみそラーメン。普通のラーメン丼の倍もある大きな丼に海老、ほたて、蟹、海藻などが大量に乗っている。いわゆる「ごった煮」状態ですが、味はごちゃごちゃしていません。みそが全ての味を消したりせずに、素材のひとつひとつの味が生きている。後ほど試食していただくのはこのラーメンからヒントを得て作った「つけめん」です。

 私は満州で生まれました。満州は開拓時代の北海道のように厳しい食糧状況でしたので肉といえば牛ではなく、豚。開拓時代の帯広も、すき焼きといえば「豚肉のすき焼き」だったそうです。子供の頃すき焼きの他に特別なメニューと言えば「闇鍋」でした。味噌仕立ての鍋の中に肉でも魚でも野菜でも何でも入れる。そして電気を消して食べるのです。子どもながらに楽しみなメニューでした。闇鍋も「ごった煮」。満州と北を繋ぐ「ごった煮」とはつまり「多様な味」「味のオーケストラ」なのです。

 私にとってもうひとつの北といえばイギリス。イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーのお宅でご馳走になった時のことです。彼の妻であるダスティ・ウェスカーがクリスマスプディングを作ってくれました。彼女の著書『友だち料理自由自在』にあるレシピにはレーズン、ラム酒、ナツメグ、アーモンドなど18種の材料が書かれており、それを8時間蒸し、食べる直前にもう2時間蒸すとあります。まさに「ごった煮」ですが、食べてみると想像以上においしい。ひとつひとつの味がしっかり生きているおいしさなのです。

 北の「ごった煮」は味に留まりません。芝居もそうです。シェイクスピア劇における「ごった煮」です。芝居を大きくふたつに分けるとひとつは「古典主義」と呼ばれるローマ・ギリシャでうまれた劇です。主人公はひとりで彼を中心に話は進みます。私は富士山型と呼びます。それとシェイクスピア劇、これは八ヶ岳です。たとえば『ヴェニスの商人』では、主人公はひとりではなく複数人です。主人公グループ対敵グループ。さらに対立するテーマも多様です。人種、宗教、経済、恋愛。これらが一つの芝居の中に全て入っている。統一されていませんが、そのひとつひとつが面白いのです。これがシェイクスピアの「ごった煮」だと言えるでしょう。

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2006年5月22日 いつか、どこかで、誰かと、食べる楽しみ
放送タレント 永六輔

 今日は「お湯の沸かし方」をお話します。ただのお湯、白湯です。白湯をおいしく沸かすにはどういう努力をすればいいのか。お湯の中にあるものを入れて沸かすのです。順にご説明しましょう。まずは上質のご飯を炊きます。炊き上がったご飯をピンポン大に握り、一日乾かします。それを絶対に焦がさないように網の上でコロコロと焼きつけてください。それをお湯の中に入れてから火にかけるのです。この白湯を召し上がっていただきます。 

 これは走井の尼寺・月心寺のお湯の沸かし方です。お金も手間もかかりますが、ただのお湯です。たかがお湯にこれほどの手間をかけるということなのです。 「おいしいお湯」というよりは「尊いお湯」と言ったほうが良いでしょう。もしくは「粋な」お湯。粋という字は、米に卒業の卒と書きます。米が終わるまで研ぎ澄ます。米の芯だけ、よけいなものは全部取る。お米のエッセンスが入ったお湯です。本来のお米のおいしさとはまた違った良さが出ています。

 われわれ日本人はもともと米を主食とする農耕民族です。米の歴史を受け継いできました。肉とパンを食べる狩猟民族ではないにもかかわらず、狩猟民族の食生活に変わりつつある。われわれがどういう民族で、どういう歴史の中で、どういう物を食べてきたか。それをきちんと見なくてはいけません。

 近頃はそういう歴史背景に触れないで、すぐに「さぁおいしく頂きましょう」となる。これはおかしい。「いただきます」の前に何が省略されているかご存知ですか?「おいしく」ではないですよ。お皿の上にあるお肉もお魚も生きていた命なのです。生きているということは食べているということ。「いただきます」とは「あなたの命を私の命にさせていただきます」なのです。われわれの命とは今食べたお肉やお魚の命なのです。動物や植物が生まれ育った地球の命なのです。そのように地球の命の歴史がわれわれに伝えられてきました。そしてまた同じように、36億年分の命を今度は子供たちへと伝えていくのです。


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2006年6月28日 辺境の食卓
作家 椎名誠

 北海道で有名な「ジンギスカン」をモンゴル料理だと思っていました。最初にモンゴルを訪れた時に本場のジンギスカンを食べてみたくて、お店で頼みました。でも全く通じない。「こういう鍋で肉を焼くんだ」と説明すると、「焼くなんてありえない!」と現地の記者に強く言われました。肉を焼くと油が出てしまうんですね。油も大切な栄養エネルギーです。モンゴルでは肉は「蒸す」のが一番とされています。「蒸す」と油を閉じ込めることができるのです。「ジンギスカン」は日本人しか食べないモンゴル料理なのです。

 遊牧民族は家畜・動物を大事にしますから、彼らの全部を食べます。例えば、モンゴルの遊牧民族は独特の方法で羊を殺します。まず胸を切る。切り口は小さいほど良い。手が入る位の大きさです。手を入れて心臓まで伸ばして大動脈を親指で切る。どうしてこのような方法で殺すのか?血も重要な栄養だからです。血は体内に留まり、血詰の腸ができます。肉と血詰の腸を一緒にゆでると、モンゴルで一番おいしい羊料理「シュース」です。

 北海道よりもっともっと北の「北極圏」にも遊牧民族がいます。その北極圏に住んでいるエスキモーの主食はアザラシ。獲ったらすぐに氷の上で解体します。マイナス40度の中、手袋を脱いでの解体です。アザラシの腹を切って、中に手を入れていたので「モンゴルと同じことかな?」と思ったら全く違う。手を温めていたんですね。

 夏のツンドラでイヌイットと一緒に食べたのは、カリブー(野生のトナカイ)です。カリブーの生肉はうまい!その生肉を胃袋の中身につけて食べます。カリブーの胃の中は消化される苔でいっぱいです。その胃袋ソースにつけて生肉を食べるのは、非常に理にかなっているのです。ツンドラは植物が生えません。そこでイヌイットはビタミンCを肉から摂るほかないのです。そして肉を焼いたり蒸したりするとビタミンCは壊れてしまう。だから生のままで食べる。カリブーが夏に苔を食べて、胃で多少食べやすくしてくれたビタミンCを生肉につけて食べるというわけです。このカリブーの肉を具にしてカレーを作りました。北極イワナカレーも作りました。

 日本に帰ってきてから日本古来のカレー、日本独自のカレーを考えました。出汁を使うお蕎麦屋さんのカレーだと思ったんです。具は油揚げ、厚揚げが日本のカレーとして相応しい。今日召し上がっていただくのはこの「油揚げカレー」です。


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2006年7月22日 日本の居酒屋を歩いて
アートディレクター・東北芸術工科大学教授・作家 太田和彦

 20年程前バブルによるグルメブームがありました。それに反発して私の居酒屋巡りは始まりました。庶民の生活はここにあるんだと「居酒屋研究会」と称して安い居酒屋に行くようになりました。一食何万円もするようなお店には毎日は行きたくないですが、居酒屋は顔を出したくなる。酒よりも落ち着きを求めます。古い居酒屋は落ち着いて、良いものです。私にとっての居酒屋三原則は「いい酒、いい人、いい肴」。

 ある時、和歌山の長久酒場という居酒屋に行きました。そこで食べたウツボのタタキ、カラスミは絶品、「いい肴」でした。そして地方独自の魚とその調理法があることに気づいたのです。これは日本中の居酒屋をまわらないとダメだと思いました。

 その内「いい人」を中心に居酒屋を探すようになります。主人や女将さんとお客さんのつくりだす何とも言えない雰囲気。ご主人が2代目3代目ならお客さんも2代目3代目というお店です。いい顔が揃っている。地方都市には、そういう名物になっている居酒屋があります。城下町のように歴史や文化のある町に多いです。工業団地で大きくなった都市では見かけません。それはどうしてか。町というものがある程度の歴史的成熟を迎えると必然的にできるのではないかと思います。いわば社交場です。イギリスならばパブ、ドイツならビアホール、そして日本では居酒屋。町の活力が集まる場所です。

 そういうお店はホテルのフロントで訊いても教えてくれませんね。話題の店、新しい店ではダメなのです。一昔前の繁華街が良いでしょう。古い町並み、古い建物、そして店先が清潔であること。こういうお店は大抵良い店です。
 
 地方によっても特色があります。例えば関東は酒にうるさく、関西は料理にうるさい。東北の主人は無口が多く、九州は逆ですね。沖縄の居酒屋はどこも素晴らしいです。はずれがない県です。泡盛もおいしいし、どの店も寛げます。さて北海道はどうでしょうか。昨日は帯広で7軒ハシゴしました。ある店で刺身を頼むと、本わさびではなく山わさびで出してくれました。山わさびのあの野太い味、強い味は北海道らしい旨味だと思います。 
 帯広は豚丼で有名です。豚以外の鹿や羊や熊のような獣の肉を使った料理をもっと出せば良いのにと思っています。そこで今日召し上がっていただくのは鹿と羊のタタキです。


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2006年8月10日 小野小町の美容食
食文化史研究家・西武文理大学客員教授 永山久夫

 平安貴族の小野小町は古今和歌集にも選ばれるほどの歌の名手で、しかも大変な美人だったとされています。そんな小野小町は一体何を食べていたのでしょうか。
『玉造小町荘衰書』という本があります。この玉造小町という人は小野小町がモデルになったとされています。この本に出てくる食事を見れば、小野小町がどんな食生活をしていたのかがわかるのです。

 今日召し上がっていただくメニューは3品。まず一品目は「牛筋の煮込み」。『玉造小町荘衰書』では熊の掌を使っているのですが入手困難なので、牛で代用します。熊肉にはコラーゲンがたっぷり入っています。
2品目は「かにの羹(あつもの)」。カニの色素にはアスタキサンチンが多く含まれています。細胞の酸化、つまり老化を防いでくれるのです。
3品目は「梅枝(ばいし)」。古代菓子の一種です。本当は8種の揚げ菓子があるのですが、今日はその中から1つご紹介します。梅枝はごまをたくさん使います。ごまは髪の毛に良いのです。小野小町は平安時代の人物です。あの時代の女性はみんな髪が長いですね。美しい髪は美人の条件でした。それにはごまが欠かせなかったのです。

 これらのメニューからわかることは小野小町がアンチエイジングの名人だったということです。お肉でコラーゲン、魚介でDHAやアスタキサンチンをバランスよく摂っています。梨、桃、杏、柚子、すももなどの果物からはビタミンC。さらにお菓子では餡を使いますね。小豆はアルツハイマー、ガンに良いとされています。それとセロトニン。和食に多く含まれます。暗くなるとメラトニンにかわり睡眠導入剤となり、免疫力アップにも一役買います。

 平安貴族には地方からの貢物として色々な食材が手に入ります。小野小町はそれらを使い、美容効果、不老作用に役立つ成分を上手に摂取していたのです。老化防止、長寿を左右するのは生命力だと思います。生命力とは自然治癒力、免疫力のことではないでしょうか。普段の食生活でその力を高めていく。小野小町は食べ物での健康管理、アンチエイジングに成功したと言えるのではないでしょうか。


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2006年9月20日 様々なる食文化
作家 島田雅彦氏

 北海道の代表的な魚である鮭。現在、日本で消費量ナンバーワンの魚です。その鮭ですが、みなさん内臓はどうしますか?捨ててしまうのではないでしょうか。私は無駄にすることなく食べたい。捨てるところなしがよいと思います。そこで今回は、私の考案した鮭のフルコースを召し上がっていただきます。これで鮭を全部食べることができます。

 私は魚を買う時、内蔵ももらってきます。いちばんおいしい部分なのです。熊をみてください。鮭を獲ったらまず内臓から食べますよ。栄養も豊富で一番おいしいところだからです。捨ててしまうのは本当にもったいない。
 以前、択捉に訪れたとき鮭が川に戻ってくるのを見ました。もう川なのか鮭なのかわからなくなる位の鮭が登ってくる。そして、それを狙うカモメ。このカモメはとても贅沢な鮭の食べ方をします。目玉をつついて食べて、他は残す。そこが一番おいしいいうことです。

 産卵後の鮭は養分がのこっていません。しかしアイヌの人々はこれも無駄にはしませんでした。干して保存食とします。油分が抜けてカチカチになり、2年間はもつ保存食です。鮭を余すことなく食していたのです。鮭はアイヌ語でシエペといい「主に食べるもの」という意味をもっているそうです。主食に近かったのですね。

 現在、鮭の内臓はほとんどが廃棄物として処理されます。消費量ナンバーワンの魚ですから、すごい量になるわけです。なんてもったいない!いま小泉武夫先生の指導の下、その捨てられてしまう内臓を「魚醤」として再利用しようという試みが始まっています。内臓を発酵させるのです。「発酵」には旨味が出る他に「保存」が利くというメリットもあります。

 この「保存」はひとつのテーマですね。「保存」するには、まず「乾燥」があります。アイヌの鮭の干物なんかがそうです。さらに「発酵」です。魚の発酵食といえば鮒ずしですが、最初は抵抗がありますよね。しかし慣れるとたまらないおいしさです。高度な発酵テクノロジーをもっているかどうかはその民族の食文化の成熟度を測るためのバロメーターといえます。ナンプラー、鮒ずし、チーズなどが代表です。


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2006年10月24日 つくり手、売り手、買い手をつなげる「いいものプロジェクト」
(有)良品工房代表取締役 白田典子

 良品工房という会社で「いいものプロジェクト」という活動をしています。「りょうひん工房はどんな漢字ですか?」と聞かれるたびに「良い品と書きます」と答えながら「良い品って何だろう?」と考えます。「みんながハッピーであること」がひとつのポイントではないでしょうか。その商品に関った生産者、メーカー、バイヤー、店、消費者すべてがハッピーにならないと一時的なもので終わってしまうのです。

 
 「いいものプロジェクト」を始めるヒントになったのは三者三様の「悩み」でした。生産者は「よいものを作っている自信はあるが、営業力がない」、店・バイヤーは「一体何が売れるのか、わからない時代になった」と言い、消費者は「近所の店には欲しいものがないと取り寄せをしている」のです。 

 バイヤーは「売るのが難しくなった」と言いますが、本当にそうでしょうか。消費者にとって「買うのが難しくなった」のです。買うものがないのではなく、何を買ったら良いのかわからないのです。そこでモニターによる実食・実感アンケートを開始しました。生産者・店からの情報・想いを消費者に届け、生産者・店には消費者の声を届けます。モニター登録は有料制です。「お金をもらえるから」「商品をもらえるから」とアンケートに答える人はいません。
 消費者からの声で多いのが「自分たちが何も知らないと気付いた」というものでした。毎日食材を買って、作って、食べているというのに知らないことがたくさんあるというのです。だからこそ数字に頼りがちになってしまう。数字やデータに踊らされないようにしていかなくてはなりません。

 
 昔、鮎を加工して届けていたことがあります。発泡スチロールと氷と鮎だけではさみしいのでヒバの葉をキレイして一緒に入れるように加工場のおじさんに話しましたら、ひどく怒られました。なぜゴミみたいな葉をわざわざ入れるのかと。でもお客様の声は違いました。「盛り付けの時に添えると一段とおいしく感じました。東京では葉は中々手に入りません」とお葉書をいただいたのです。田舎では誰も見向きもしないただの葉っぱでも、都会に行けば宝なのです。地産地消という考え方も大事ですが、地元の人が何とも思っていないものでも他の土地に行けば喜んでもらえるものもあるということ忘れないでほしいと思います。


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